遺言書を知る

 

  実は今現在、遺言書を書く方が右肩上がりに増えていっています。

  司法統計上、自筆による遺言書は平成5年当初に比べると、軽く2倍

  以上、日本公証人連合会によれば、公正証書遺言は平成元年に

  比べても同じく2倍以上という数字が出ており、その近年の増加傾向

  は目を見張るものがあります。

  遺言書を知ることで、この現状を理解することができるかもしれま

  せん。


  
 

  ◇ 遺言書の本来の目的 ◇

  わざわざ書くまでもないことかもしれませんが、「相続トラブルを回避

  する」ということがなによりもまず遺言書を書く一番の目的となります。

  裏を返して言えば、相続トラブルが無ければ必要無いということです。

  多くの人が遺言書を書かない理由がそこにあります。

  そして問題なのは、「自分(または自分の家族)に相続トラブルなんて

  起こらない」と思っている人、または「相続するほどの財産なんて持って

  いない」と思っている人が多く、しかもそれは大きな勘違いであること

  がほとんどだという現実なのです。


  遺言書というのは一言で言うとトラブル回避予防策の一つであり、

  ご本人が亡くなるまではその役割を果たすことはありません。

  また、その遺言書が真価を発揮するときにはご本人はいない、という

  ジレンマをかかえてもいます。

  例えば似たような性質のものでは、生命保険がありますよね。

  しかしこちらの場合、死亡時のメリットが金額としてはっきりとわかり

  やすく、しかもそもそも対象がお金というわかりやすいものに絞られて

  いるためにその必要性が広く浸透していて、そこが遺言書とは大きく

  違います。

  生命保険には入っていても、遺言書は書いていないという人は多いの

  ではないでしょうか?


  遺言書も実はお金という財産部分が対象ではあるのですが、複雑に

  人間関係が絡んできますので、その必要性自体わかりにくいものと

  なっています。

  ところが、この「人間関係」はお金などの形あるものよりも、大事な

  財産であり、またそれは遺言書を書くことにより保全されることが

  多く、結果生命保険よりも必要性が高いとも言えます。


  それでは次にその遺言書が法律的にはどのように効果を発揮するかを

  考えてみましょう。


  






















  ◇ 遺言書の法的効果 ◇

  もしあなたが遺言書を書いたとしましょう。

  その後あなたがお亡くなりになったとき、この遺言書はいったい

  どういう働きをするのでしょうか。

  
  通常相続が開始したとき、推定相続人(法律によって相続分を定められて

  いる人であり、遺産を受け取る資格がある人)全員によって遺産分割の

  協議をすることになります。

  そこで、法定相続分を 参考にしつつ、話し合いをするわけなのですが、

  この「法定相続分」は絶対にこう分けないといけない、というわけでは

  なく、この話し合いにおいてはあくまで基準でしかありません。

  つまり、自由に分け方を決めることができるということ。

  大事なのは、相続人全員がその分け方を納得して受け入れること

  なんです。

  多数決でもなく、たった一人反対があるだけで協議はまとまらないという

  ことになります。

  話がまとまらないだけならまだしも、相続人の一人が行方不明であったり

  認知症などで話し合いができない状態であったりと、そもそも協議自体

  ができない場合も考えられるのです。もちろん、「いる人間だけで協議

  を進めよう」と言って遺産分割した場合は当然無効となります。


  そういった様々な事情で協議がまとまらない場合は面倒な手続きが必要

  になってくるのですが、それは後述することにしましょう。


  以上のことは遺言書が無い場合の相続です。

  遺言書がある場合は、まず遺言執行者をたてて、その遺言執行者が

  粛々と手続きを進めます。

  つまり話し合いによる利害の対立やそれによるいわゆる「争族」も

  基本的には発生しません。

  さらには先述したとおり、故人名義の預貯金などは凍結され、一定の

  面倒な手続きを経ないと引き出したり解約したりできなくなるところ、

  遺言執行者は本人に代わってそれらの手続きを行うなど、手続きそのもの

  をわかりやすく簡略化できるという面もあります。



  さて、そんな遺言書ですが、残されたご家族がみな、その遺言に不満を

  持っていても、従うしかないのでしょうか?

  いえ、それは違います。相続人全員の合意により、遺言書に沿うことなく

  通常の協議により遺産分割を行うことができます。

  ここは抑えておきたいポイントですね。


  以上を踏まえて、相続の場合の力関係の強い順を左から並べてみますと


     遺言書 > 遺産分割協議 > 法定相続分


  という形になります(あくまでこれはイメージです)。



























  ◇ 遺言書作成時の注意点 ◇

  遺言書の書き方やその効力は法律で定められています。

  そしてその様式から外れてしまうと、どれだけ手間と時間をかけて

  作っても、無効となり残念ながら無駄となってしまうのです。

  なぜ法律によって決まっているのか?

  それはそもそも遺言書が相続開始の段階でその役割を果たすために

  最低限の決まった形を作る必要があったからです。



  例えば遺言書は何度でも書きなおすことが可能です。

  ということは当然ながら何枚も遺言書が残っているという場合が考え

  られます。

  その場合は日付の新しいもの、つまり一番最後に書かれた遺言書のみ

  有効となります。

  これはまず遺言者の意思を最後まで尊重するためにというのが第一、

  それによって何枚も遺言書が存在することになってしまうという問題

  に対して日付をつけることで解決できるようにしたというわけなのです。

  「日付くらい別に・・・」とはいかないわけですね。

  なので、遺言書を作成する場合は厳格に定まった様式を守らないといけ

  ません。

  
  それから、なにより大事なのは遺言書を書く人が遺言能力があるかどうか

  と、本人の意思で書いたかどうか、です。

  遺言能力とは、「残した遺言の内容を理解し、その遺言によってどう

  いった結果をもたらすかがわかる能力」のことを指します。

  例をあげるならば、認知症の方は遺言能力が無いということになり、

  遺言書を書いても無効ということです。

  ここでさらに注意していただきたいのは、遺言書を書いた時点で遺言

  能力があったのかどうかということ。

  つまり、先の例だと、認知症が改善され遺言能力が現在あったとしても、

  書いた時点で認知症ならば無効ですし、逆に今現在認知症でも書いた

  とき認知症でなかったなら、その遺言書は有効ということなんです。

  そしてもちろん、強迫などによって無理やり意図しない内容の遺言を

  書かされた場合も無効となります。



  それから、遺言書を書くときは必ず一人独立した書面にしてください。

  間違っても夫婦共同で遺言書を書いたりすると、それも無効となります。



  それでは実際によく使われる遺言書の種類を次に書いてみたいと

  思います。


 
  

  ◇ 遺言書の種類 ◇

  厳密にいえば遺言書には7つの方式があります。

  ただ、中には特殊な事情により使われるものもありますので、それを

  除けば、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3点に

  なり、それがもっともよく採用される遺言書ということになります。


  それぞれ状況によりいい点よくない点がありますが、相続問題解決という

  ゴールは同じです。

  ただ、その目的を達するためにどれが一番確実で自分に適しているのか

  をよく考える必要があります。


  イメージをつかんでいただくために、この3つの特徴をおおまかに書き

  記してみます。


  ・「自筆証書遺言」

    作成は簡単。紙とペンと印鑑さえあれば作ることができる。

    費用も自分で一から書く場合は全くかからない。

    偽造や隠匿がしやすく、つまりは信用性が低くなる。

    相続開始時、裁判所による「検認手続」が必要。

    イメージとしては、残す側からは楽、残される側は大変な遺言書。


  ・「公正証書遺言」

    公証役場にて数度の打ち合わせ後に公証人が作成。

    一定の手続きが必要な上、公証人への報酬(財産額により変動)が

    必要となる。

    まず偽造はありえない上に、原本は公証役場に保管されるため、

    隠匿や紛失の心配は無い。

    相続開始時の検認手続も不要。

    イメージとしては、残す側は大変、残される側は楽な遺言書。


  ・「秘密証書遺言」

    本人が作成。その後公証役場にてその存在を証明してもらう。

    公証人の報酬は定額の11,000円。

    存在は公証人により証明されるため偽造は無いものの、公証役場

    に保存されるわけではないので、紛失のおそれあり。

    相続開始時、裁判所による検認手続が必要。

    作成した遺言書が様式的に不備がある場合、無効となってしまう

    ので注意が必要。どうしても秘密にしたいとき以外にはあまり

    需要がない。


 
  それでは次のページからこれら3つの遺言書を詳しく見ていきましょう。


























































  <<遺言書って必要?
  遺言書を知る    >>自筆証書遺言 


▲ページトップに戻る